〜 待ち人 〜
 
 
 
深夜1時。
ギルドのメンバーも誰もいない。
いつもの見慣れたゲフェンD3F。
周りを見回しても、人もモンスターも誰もいないハズなのになにか、誰かに見られているような気がしてならない。
ふと、すぐ自分のすぐ後ろになにかを感じ素早く振り返る。
やはり誰もいない。
俺は大きく息を吐き、そしてなにげなく足元を見た。
 
そこにはヒトのものだと思われる足跡が点々とついていた。ソレは墓場から始まり、俺のすぐ後ろを通ってその出口へと向かっている。
その足跡を目で追ってゆくとすぐにその足跡の主の姿を認めることができた。
それはローグだった。歳は32か33というところだろう。彫りの深いなかなか精悍な顔つきが印象的な男である。
ちょっと俺よりかっこいいかもしれない・・・。
俺がそんなことを思いつつ彼を眺めていると、向こうもその視線に気づいたのか片手を挙げて声をかけてくる。

「なあ。お前。俺が見えてんだろ?ちょっと火ぃくれねぇかな?」

「?。そりゃ見えますが・・・俺、タバコとか吸わないので火つっても・・・あぁ、MBで点くかな?」

「・・・焼き殺さねぇでくれよw」

彼は苦笑し咥えていた火のついてないタバコを口から外し右手に持って差し出す。
俺はMBを使い、手にしたソードメイスを赤熱させタバコに火をつけてやった。
彼は目を細めうまそうにタバコを吸う。

「ところでアナタはここでなにをしてるんです?」

「あ〜?待ってんだよ。」

俺の質問にめんどうそうに男は答えた。その答えに満足できなかった俺は重ねて尋ねる。

「待つって誰を?」

「相棒だよ。あ・い・ぼ・う。おめ〜そういうのいねぇの?」

「いますよ。その相方と・・・ホラ、もう結婚だってしてるんスから」

俺は誇らしげに左手の薬指にはめた指輪を突きつけてやる。男はそれを見て苦笑を浮かべる。

「おーおー。羨ましいこって・・っと、こっちの待ち人もきたらしい」

男はそう言うと視線を墓場の入り口へと向ける。俺もそれにつられるようにそちらに視線を向けた。そこには金髪の綺麗な女のプリーストが1人立っていた。

「おまたせしました」

彼女は男に向かって小さく微笑むと男の隣へと歩を進める。

「ったく、何年も待たせやがって。しかしそれにしてもまた若作りしたもんだな、オィ」

「あら、あなたのその姿に合わせてあげたのですよ」

「チッ。まあ、いいや。行くとすっか」

「はい。もう置いていかないでくださいね」

「あぁ。すまんかったな」

何年も、とはまた大げさな、と蚊帳の外で1人思う俺。

『ツヴァイトさん・・・?』

突如として懐から聞きなれた声が響く。ヤバイ。そういや待ち合わせしてたんだっけ・・・俺。しかもいままでの経験からいくとこの声はかなりマズイ。急いで懐からWIS板を取り出す。

『ご、ごめん。すぐ行くからもうちょっと待って』

「なんだよ。嫁さん待たせてんのか?」

そのやりとりに気づいた男が声をかけてくる。

「待つのも待たせるのもあまりよくありませんよ。ねえ?スタン?」

「・・・可愛い顔して相変わらずキツイな、フィリア」

口元に手を当て優雅に微笑むプリーストと顔をしかめるローグ。

「じゃ、じゃあ俺はこれで失礼しますね」

「ああ、じゃあな」

「お幸せにね。ツヴァイトくん」

 2人の声を背に俺はテレポートの呪文を唱えゲフェンDを後にした。
 ん?なんであの人俺の名前知ってたんだろ?あんな綺麗な人、忘れるわけないんだけど・・・。
 
 

「・・・とゆ〜わけで遅くなっちゃったわけです。ハイ。スイマセン」

「気にしない、なのです〜」

「・・・じゃあ、このツツいてくる鷹をどうにかしてもらえませんかね?」

「それはどうにもならないのですね〜」

(あぁ・・やっぱり怒ってるぅ)

ゲフェン中央に位置する噴水を背に俺とその相方のリゼールはベンチに腰を下ろし、目の前を通る冒険者やそれを相手に商売を行う商人などが忙しそうに行きかう様を見るとはなしに眺めていた。

「そういえばプロンテラ大聖堂のフィリア大司祭が先ほど亡くなられたそうなのですね。さきほどここでも号外が配られてたなのですよ」

「もういい歳したおばあちゃんだったからねえ」

「若い頃の写真見たなのですけどすごい綺麗な方だったなのですね」

「あれ?見たことあるの?」

「これに載ってるなのです」

実際に見れるわけないなのですよ、と呟き彼女は俺にその号外とやらを見せてくれる。

「え・・・あれ・・・フィリア大司祭の若い頃・・・ってコレ!?」

俺はその写真を見て驚く。この写真の女性ってさっきの・・・。

「お若い頃は冒険者として世界中を旅なさっていたそうですね。でもある日を境にパタッと冒険をお止めになってしまうなのです。確かパーティーの1人がゲフェンDでお亡くなりになって・・・」

記事以上に豊富な知識を披露するリゼールの言葉を俺は上の空で聞いていた。
そうか。俺はプリーストに成り立ての頃に1度だけあの人に会ってるんだ。確かあのとき言われた言葉は・・・

「・・・それで、そのパーティーの活躍を描いた物語の最後の方で冒険者を引退した後のフィリア大司祭が成り立ての殴りのプリーストさんに言うセリフがかっこいいなのですよ。えっと、確かなのですね〜・・・」

「『支援だけでは救えないものもあります。人を癒すためでなく、人を傷つけないために前に立って戦うプリーストがいてもいいのではないでしょうか?私はあなたが羨ましいです。私にもそんな力があれば大切なものを守れたかもしれなかったのに・・・』じゃない?」

リゼールの言葉を遮り俺は言った。
リゼールはちょっと驚いたように目を見開き、

「ツヴァイトさん・・・そんな長いセリフ、覚えることできたなのですね」

「ツッコムとこはそこですか・・・」

予想通りといえばあまりに予想通りな相方の反応にハハハと乾いた笑いを浮かべる俺。

「でもこのセリフから察するに、フィリア大神官は大切な誰かが死んじゃったみたいでちょっと可哀想なのですよ〜」

「ん〜。でも少なくとも今はきっと幸せだよ」

「?なんで分かるなのです??」

「さっき会ったら幸せそうだったから、ね」

「?」

俺はなんとなく優越感に浸りつつ答える。
なんか隠してるなのです、と不機嫌そうな声を出すリゼール。
そんなリゼールを眺め俺は思った。
俺もそれなりに幸せだよな、と。
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