「マグナムブレイク!!」
 
爆音が洞窟に響き渡りツヴァイトに迫っていたグールが3匹まとめて吹き飛ばされる。
 
「やっぱりココが一番だよな」
 
爽やかに腐った死体を吹き飛ばしたプリースト、ツヴァイトはその右手に持った鈍器、スタナーを肩に担ぎグルリと首をまわす。
ここ1週間ほど、ギルドのマスターの仕事やら、大聖堂の事務仕事やら、あげくの果てはなんだかおかしなノビに捕まったり、でとちっとも狩りができなかったのでツヴァイトも若干ストレスが溜まっていた。
 
「さぁて、もうちょっとストレス解消・・・じゃないや、迷える魂を昇天させてくるかな」
 
その顔にとても神に仕える者とは思えない笑みを張り付かせ1人ほくそ笑むツヴァイト。この表情でスタナーをぶら下げて夜のプロンテラを徘徊しようものなら不審に思った誰かが速攻で衛兵を呼んでも誰も異論は唱えないだろう。
 
しかし彼のスタナーがこの日、GD2Fの住人達を叩きのめすことはとりあえずなかった。
 
「ツヴァ・・トさん・・に・・・が」
 
「ん?」
 
これから!と気合を入れたところに水を差され、やや憮然とした表情で懐のWIS板を取り出し操作するツヴァイト。
 
「あーあー、こちらゲフェンダンジョン出張所。現在とっても忙しいので御用のかたは・・・」
 
「やぁ・・!そんな・・あふ・・助け・・て」
 
「!!?ん。おい!どうした!!今どこにいる!?」
 
その声にただならぬものを感じ思わずツヴァイトはWIS板に向かって叫んでいた。声は昨日のノービスであろう。WIS板から飛び込んできたその声はどう考えてもそのノービスがなんらかのトラブルに巻き込まれているのを示している。
 
「ここはイズルードの・・・ひゃう!変なとこ触らないでってば!!この赤い羽・・ぁ!」
 
「お、おい!・・・くそっ!」
 
何かが柔らかい物の上に落ちるようなトサッという柔らかい音を最後にWIS板からの音声が途絶える。
恐らくはその襲撃者にWIS板を落とされたのであろう。
 
「ちくしょう・・・。一体なんだってんだ!!」
 
どう考えても昨日のノービスが何者かに襲われているのは間違いない。
冒険者などといってもしょせん駆け出しの、しかも女の身である。
駆け出しの冒険者が騙されて・・・などという事件もザラにあることなのである。
むしろアクティブに襲ってくる分、駆け出しのノービスにとってはモンスターよりも人間の方タチが悪い。
 
「ノービス・・・イズ・・・昨日あのノービスはどの狩場で狩ってるって言ってたっけか・・・」
 
短く刈り込んだ黒髪をバリバリと掻き、珍しく普段使わない部分をフル稼働させるツヴァイト。相方といるときは考える部分は相方にオマカセなので正直あまり考えるのは得意ではなかったりする。・・・情けないかぎりだが。
 
「イズ・・崖の下!あ、そうか。あそこか!!」
 
言うや否やワープポータルを唱えその光の中に身を躍らせる。
イズの近くで崖の下って言えば俺が駆け出しの頃に狩ってたあの場所じゃないか!!
 
 
ポータルを抜け、見慣れた酒場には目もくれずツヴァイトは全速力でその場所へと走る。
速度増加のチカラも手伝ってその場所へはものの数分でたどり着く。
そこは衛星都市イズルードと首都プロンテラを繋ぐ道の間、イズルードのすぐそばにある切り立った崖に囲まれたちいさな空き地だった。
ツヴァイトも駆け出しの頃誰もいないここでポリンをつついたりして修行していたのである。
ツヴァイトは荒い息をつき、まわりを見渡す。
 
はたしてその場所には昨日の女ノービスはそこにはいなかった。
その代わりにそこにいたのは、よく見慣れた顔であった。
 
嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべるモノクルをしたハンター。
Lieserlである。
 
「え・・・あれ?なんでリゼさんがここに??」
 
呆けたような顔でそれを見つめるツヴァイト。
それを見て楽しそうに笑うLieserl。そのままツヴァイトの問いには答えず笑顔を浮かべたまま無言でツヴァイトの下へと歩を進める。
 
「あ、あのさ、ここに昨日のノービス、っていうかみおちゃんがいなかったかな?」
 
思わず一歩後退しつつそれでも疑念を晴らすべく口を開くツヴァイト。
Lieserlはそれにも答えずツヴァイトとの間をさらに詰める。
ツヴァイトとLieserlとの間はもう1歩ほどしかない。
Lieserlは妖艶な笑みを浮かべるとその最後の1歩を詰めツヴァイトに体を密着させる。
柔らかで豊かなその胸がツヴァイトの体に触れ
 
次の瞬間ツヴァイトは大きく後方にステップしLieserlとの間を空ける。
 
不思議そうな、それでいて悲しそうな表情でそれを見るLieserl。
 
「お前・・・リゼさんじゃないな?」
 
厳しい眼差しを目の前の『Lieserlの形をしたなにか』に向け愛用のバックラーとスタナーを構える。
 
(そうだよ!それはリゼさんじゃないよ!!)
 
動かぬ体でそれを必死に伝えようとしていたみおはツヴァイトのその声を聞き安堵する。
彼女は崖のちょっとしたくぼみのようなところに放置されていた。
意識はハッキリしているのだが体がまるで自分のものではないように動かないのがもどかしい。
 
(でもなんで分かったんだろう?)
 
お世辞にも昨日会った印象からいってもこのプリーストのカンが鋭いようには見えなかった。
 
「さて!正体を見せてもらおうか!!」
 
言いツヴァイトは、切なそうな表情を浮かべ胸の前で手のひらを合わせたLieserlに容赦のないスタナーの一撃を加える。
次の瞬間、みおは自分の目を疑うような光景を目にする。
Lieserlのようななにかがスタナーによる強烈な一撃をその細腕であっさりと受け止めたのである。
そしてそのまま逆の腕をツヴァイトにまっすぐに向ける。
そこから放たれるは赤黒いソウルストライクにも似た光弾。
その赤黒い光弾は狙い過たず全てツヴァイトに直撃する。
その衝撃に耐え切れずツヴァイトの体が宙を舞い地に落ちる。みおは思わず目を瞑る。
 
「っつ〜。やっぱり正体はソレか」
 
まるで何事もなかったかのように体を起こすツヴァイト。実際、見た目ほどの威力はその光弾にはなかった。
というより今のツヴァイトにはさして効果がなかったというべきであろうか。
 
ツヴァイトの目の前の『ソレ』はもはやLieserlの姿をとってはいない。
その姿は人間の女性に酷似していた。違うのはその背から生えた真っ赤な羽と頭部の角である。
申し訳程度に皮膚を覆う黒い布が扇情的である。
 
「いやはやサキュバスとは。ジュノーのモンスター博物館で見てなかったら分からなかったょ」
 
ツヴァイトが改めて半身に構えを取り言う。
サキュバス。封印されているゲフェニア遺跡にいると言われているモンスターで人間(男女関係なく)の精気を糧として生き、噂では相手の望む容姿と態度を取ると言われているモンスターである。
 
「なぜ私の正体が分かったのかしら?」
 
サキュバスがツヴァイトに問いかける。
その声は美しくそして艶かしい。ずっと聞いていたくなるような思いにさせるそんな声である。
そのサキュバスにスタナーを突きつけツヴァイトが〜この男にしては珍しく〜自信満々に言う。
 
「ふ。リゼさんはそんなに胸は大きくないし、そんな可愛げのある仕草はしない!」
 
(だめだこのひと)
 
みおはがっくりと脱力すると昨日、マインゴーシュをくれたハンターにココロの中で意見する。
この人だけはやめといたほうがいい、と。
 
あんまりといえばあんまりな答えにキョトンとするサキュバス。
一瞬の間を置いて上品な笑みを浮かべる。
 
「ふふ。おもしろい人ね。あなた気にいったわ。どう?アナタなら『食事』じゃなく相手してあげるわよ?」
 
その魅力的な体にチラリと視線を落とすツヴァイト。
考えること5秒
 
「・・・これでも一応・・聖職者・なの・・でね」
 
搾り出すように言葉を口にするツヴァイト。苦渋の決断だったらしい。
サキュバスはおかしそうに笑うとその背の羽を羽ばたかせ宙に浮く。
 
「聖職者だから・・・だけが理由なのかしら?」
 
ツヴァイトはそれには答えずみおが倒れている方へと足を向ける。その顔に浮かんだ憮然とした表情がサキュバスの問いに対する答えになっているようなものである。
サキュバスはその態度にやはり笑みを浮かべ、
 
「まあ、がんばってね、若い神官戦士サン」
 
と、投げキッス1つ、ツヴァイトに送るとそのまま宙に消える。
 
ツヴァイトはそれを横目で見つつみおを背負うと1つため息をつき一言呟く。
 
もったいなかったかな、と。
 
 
                                                 〜Fin〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あるギルメンとの出会い
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