第六章「キミはボク。ボクはキミ」 〜『沼の奇術師』レッド=ヘリング〜
「やぁ、レドくん」
ぼろぼろのウィザードの装束に身を包み奇妙な形の杖を持った男がレドに話しかけてくる。
呼びかけられた当人、レド=ハーリングはその日の稼ぎを販売すべく、荷物をカートに詰め込み、それを整理するのに四苦八苦しているところだったが自分の名前を呼ばれふと顔を上げる。
「ん?アナタは?」
その男の顔は特殊な仮面で目と鼻の辺りが覆われていて判然とはしなかったが口元は軽く笑みを浮かべ全体的な雰囲気も柔らかなものでやさしげな雰囲気がただよっていた。だがレドはなんとなく嫌な感じがした。それがなにかは本人にも分からないのだがそれはとても不快な感じだった。
男はレドの質問には答えず、無言であまり人がいないゲフェンの裏通りの方を指差しそちらへ移動する。レドもそれに続いた。
しばらく歩き誰も回りにいなくなったところで男とレドは足を止めた。
「いや、すまない。どうしても一度キミを見てみたかったんだ」
「?」
男はレドの質問忘れてしまったかのように話しを続ける。
「キミは1人じゃないんだね」
「アナタは1人なの?」
レドがまた問いかける。
「どうだったんだろう?よく分からない」
男は悲しげに首を振り口を閉じる。レドもよく分からなかったが喋ってはいけないような気がしてやはり口を閉じる。
遠くから聞こえてくる人の笑い声や話し声が静寂を埋める。
何分そうしていただろう。男がまた口を開く。
「さてと。僕はもう行くよ」
「うん。なんていうか・・・おつかれさま」
なんでおつかれさまなのかレド自身にもよく分からなかったが自然とその言葉が口に出た。今度はなんとなく悲しかった。
男はその言葉を聞くとにっこりと笑い、レドに背を向け歩き出し、数歩歩いたところで何を思ったのか頭に乗せていたシルクハットをひょいと取った。
そのときレドは最初に感じた不快感の正体が分かった気がした。男は自分にソックリだったのだ。レドは男のシルクハットの下にあった緑の髪を見てようやくそれに気づいた。
男はそのままレドに背中を向けたままそのシルクハットのつばの部分を手に持ち一振りしてみせる。するとまるで魔法のようにその手からシルクハットが姿を消す。
驚くレドを尻目に男はそのまま人ごみの中に消えていった。
レドは男が人ごみに姿を消したあともボーっと突っ立っていたが、ふと我に返り再び当初の目的である「カートの荷物整理」を続けるべく自分の後ろにあるカートを振り返る。するとそこにさきほどあの男が消して見せたシルクハットがあるのが目に入り目を丸くする。
「あれ?一体どうやったんだろ??」
彼はウィザードのようだったが「生物以外の物体の転送」の魔法などというものがこの世界に存在しているなど聞いたことが無い。とりあえずこの帽子をどうしたものかと手に取ったレドは帽子の底になにやらメモ書きのようなものがあるのに気づいた。そしてそこに書いてある文字を見て再び目を丸くした。
そこにはこう書いてあった。
『心優しき錬金術師レド=ハーリングに祝福あれ!!』
と。
〜あとがき〜
レドの1stキャラ。AGIWIZレッドヘリングのキャラ消し記念ショートストーリー。
ヘリングは延々とソロだけなキャラ。スキルもステも世間的に正しいと言われるものからみれば間違いだらけ。特に先輩なツヴァがアドバイスしなかったせいもあるんだけど^^;1stってそうやって間違って育った方が悔やむこともあるだろうけど後々おもしろいと思うんだよなあ。
個人的に思い入れが強いキャラだったので実は色々設定があったり。レドの了承さえ得れればなんでこの2人がソックリなのかとかもちゃんと理由が存在してますよ。
ラストのマジックっぽい展開はリアルレドが手品好きだから。
ちなみに「レッドヘリング」っていうのは手品用語で騙しとかそう言った意味で使われる言葉。