(5) 
 
 
「ふぁ〜あ」
 あまり他人には見せられたものじゃない顔をして大あくびをしつつ思い切り体を伸ばし伸びをするツヴァイト。傍らの愛用のクロック型置き時計を見るとまだam6時。また早く起きたものである。
 ちなみに最近プロンテラではクロック型時計とアラーム型時計の2種が争って売り上げを伸ばしているらしい。なぜかクロック型はマジシャンに人気でアラーム型はウィザードに人気があるそうだ。なんか理由はあるのだろうがツヴァイトには関係のないことである。ちなみにツヴァイトの場合たまたま安い方を購入しただけである。
 とりあえず無意味になったアラームを解除しベッドから降り着替えを始める。と言ってもいつものセイントローブを羽織るだけなのだが。
 狩りなどに行くときはこの下に鎖帷子等を着込むのだが今日は別にそういうつもりもないのでローブだけである。
 着替えを済ますとツヴァイトは1Fへ足を向ける。ツヴァイトが根城にしているこの宿は1Fが酒場、2Fが宿屋となっているごく一般的な作りの宿である。
「あ、ツヴァイトさん!おはようございます!今日は早いですね?」
 1Fへと降りるとやたらと元気な声がツヴァイトの耳を打つ。
「ファナちゃん。おはよ。ま、たまにゃ俺だって早く起きるさ。それにしても朝っぱらから元気だねぇ」
 ツヴァイトも軽く手を挙げそれをヒラヒラさせつつそれに答える。
 彼女はこの宿の看板娘・・・とでもいうのだろうか?名前はファーナ。笑顔が可愛く、とにかく元気な女の子である。愛嬌のある大きな目と明るい茶色の髪が特徴的である。歳は確か15か16だったハズだ。Lieserlの1つか2つ下だと言っていたからたぶん合っていると思う。
「ところで知ってます?あの辻切りの犯人捕まったらしいですよ!プロンテラ騎士団の1人がやっつけたそうですよ。かっこいいですよねぇ」
 カウンターに肘を乗せ両手を組みあさっての方向に目をやるファーナ。
 ふむ。そういうことになっているのか。
 チラっとファーナの傍らに目をやるとプロンテラウィークリーが目に入る。
「ね。ファナちゃん。その新聞見せてもらっていいかな?」
「あ、どうぞ。ところでなんか飲みます?」
「じゃ、いつものでよろしく」
「は〜い」
 奥の厨房へと姿を消すファーナ。ツヴァイトも立ち上がりカウンターの新聞を手に取る。見ると1面にデカデカと
『プロンテラ騎士団員、影の騎士、辻斬り犯人を討ち取る!』
と出ている。影さんも大変だなあ。などと考えつつその記事に目を通してゆく。と、唐突に酒場の扉が開き1人の女性が入ってくる。
「あ、シルアビルさん。おはようございます」
 ちょうど奥から顔を出したファーナが声を掛ける。軽く手を挙げそれにそれに答えたシルアビルはそのままツヴァイトの座っているテーブルにつく。ファーナがツヴァイトの注文した〜やたらと甘い〜コーヒーを置く。ツヴァイトは礼を言いそれに口を付ける。う〜ん。やっぱりここのコーヒーはうまい。
「ふ〜ん。こういう風になったんだ。でも倒したのはキミらでしょ?」
 ファーナが再びカウンターの奥へと姿を消すのを確かめてからツヴァイトの向かいの席に座ったシルアビルが大きく身を乗り出しテーブルに置いた先ほどの記事を覗き込むようにし、そのまま上目遣いにツヴァイトを見上げる。ツヴァイトの位置からだとテーブルに乗り出した彼女の胸の谷間モロに目に入ることとなる。それに気づき焦って目をそむけるツヴァイト。ちなみに彼女も先日一緒に戦ったLBと一緒のアサシンであるのか服装はそれとほぼ同じである。
「え、ええ。そうです。シルさんの情報のおかげです」
 無意味に窓の方に目を向け頬をポリポリと書きつつ言うツヴァイト。彼女のおかげというのは本当である。ツヴァイトは彼女からあの辻切り犯の出現しやすい場所の情報を購入していた。それにしたがってLieserlと見回り見事犯人と出会い倒した、というわけである。
「フフ。ありがと」
 シルアビルは満足したのか元通り椅子に座りなおし再び笑みを浮かべる。
 まったくよく分からない人である。彼女のことは情報屋としてしか知らないがどうやらまだまだいろいろな顔を持っていそうだ、とツヴァイトは思っている。別に特別知りたいとも思わないが。間違いなく確かで重要なのは彼女の情報が確かなものである、というその1点だけである。
「で、結局アレの正体はなんだったの?」
「あの形状は恐らくエクスキューショナーですね」
 シルアビルの問いに答えるツヴァイト。
 今日彼女に会う理由というのがこれだった。辻切り犯の出現情報をシルアビルが安くコッチに提供する代わりにその辻切り犯についての情報をコチラが提供する、という約束をしていたのである。
「エクスキューショナーってあの伝説の魔剣の?」
「ええ。ただし今回の剣はその魔剣じゃないですよ」
 不思議そうな顔をするシルアビル。う〜ん。説明不足だな。ツヴァイトは更に説明を続ける。
「伝説の魔剣は3本あるのは知ってますよね?」
「情報屋がそんな有名なの知らなかったら廃業よ。オーガテュース・ミステルティン・エクスキューショナーの3本ね」
 指折り数えるシルアビルに頷くツヴァイト。
「そうです。それらの魔剣は今も世界のどこかで眠っている。っていうのが通説です。が、俺は魔剣は人が生み出しているといると思ってるんですよね」
「どういう意味?」
「結論から言うと今回の犯人が使っていた剣の正体はただのファルシオンでした。持ち主が死んだら急激に普通のファルシオンになって真っ二つに折れてしまいましたがね」
 ツヴァイトがコーヒーに口を付ける。むむ。ぬるくなってきたな。
「つまりあれを魔剣にする何かがあったわけなんですがそれはあの犯人の意思、狂気と言ってもいいですが、だと思うんですよ」
「あの犯人についてはなんか分かったの?」
「ええ。あれはプロンテラの兵士ですよ。剣の腕はたいしたことなかったんですが誇大妄想の気があったみたいで『俺はホントは強くて騎士になれる器なんだ〜』みたいなこと言ってたらしいですね。と、言って実際はたいして強くもないから同じ兵士、ましてや騎士になんぞ勝てもしない。で、一般人殺して自己満足〜だったようですよ」
「サイアクね」
「ですね。で、まあ、こっからは俺のカンなんですがこんな感じで殺しまくってるウチに『俺TUEEE!!』が加速していったんでしょうね。今度は調子にのって自分の憧れの対象でもあり憎しみの対象でもあった騎士を狙ったんでしょう。が、俺TUEEは妄想なので勝てるわけはないんですが彼の中では勝てないわけはないんですよ。」
「なんかややこしいわね」
 言うシルアビルに苦笑を浮かべるツヴァイト。
「説明が下手なもので。それで、彼の妄想と現実のズレを修正するべく生まれたのが今回のエクスキューショナーだと思うんですよ。彼は騎士に負けそうになったとき相当にチカラを欲したんでしょうね。で、生まれた魔剣は彼がチカラを欲するごとにそのチカラを与えてその代償に彼の体を侵食していっていった・・・というのが俺の仮説ですね」
「なんで3本ある魔剣のうちでエクスキューショナーになったのよ?」
「これも俺のカンなんですがどの魔剣が生まれるかはその人がチカラを求めた理由によるんじゃないかと思うんです」
「つまり今回だと『殺人の欲求』だったからエクスキューショナーだったってこと?」
 頷くツヴァイト。
「そうです。他の2本についてもなにかがあると思っていますが・・・」
「ありがと。分かったわ。なかなかいい情報だったわ。ちょっとこっちが得しすぎちゃったかもね」
 言い立ち上がるシルアビル。もう十分ということだろう。ツヴァイトは残ったもうすっかり冷めてしまっているコーヒーを一気に飲み干し、
「これで役に立てたなら俺もうれしいですよ・・・ってあれ?」
 目の前にいたハズのシルアビルが姿を消しているのに気づく。
「せっかくだからちょっとサービスしとくわね」
 唐突に耳の横で囁かれる、と
ほぼ同時に頬に柔らかい感触。
「!?」
「隙を見せたアナタがワルイのよ。神官戦士さん♪
じゃ、またね。アナタの可愛い相方さんにもよろしくね」
 来たときと同じように唐突に去って行くシルアビル。
「・・・ツヴァイトさん。いけないんだ〜」
 カウンターから掛かる声。ハッとしてそちらに顔を向けると
カウンターに頬杖をついて半眼でジトーっとこっちに視線を送るファーナの姿が眼にうつる。
「・・・ま、あれだ。今のは俺悪くないと思うんだが?」
「私、アルデバランのカフェの『スペシャルジャンボアクエンパフェ』食べてみたいなぁ」
「だ、だからどうした。俺は知らんぞ」
「あ、じゃ、いいんだ?あの人にバラしても?」
「分かったまかせろ。で、いつ行く?」
 あぁ・・・またサイフが軽くなる・・・。
 
 
「そうか。処理してくれたか。ご苦労だったな。しばらくゆっくり休め」
 大聖堂。うけひめは調査の結果をラルクに報告するすべく再びここに来ていた。
 ラルクに報告を終えたうけひめは大聖堂の長い廊下を歩きつつ考えていた。なんとなくスッキリしないものを感じるのである。
 犯人がプリーストかもしれないから調査してくれと言って調査させたにも関わらずラルクは犯人がプリーストでなかったことに対してなんの疑問も持ってないようであった。まるでそれが当たり前であったかのように。
 どう考えてもあの時点で疑わしいのはツヴァイトだった。当然ラルクもそれは分かっていたし
うけひめがツヴァイトをマークすることも分かっていたハズだ。しかし実際ツヴァイトが犯人でなかったこと、むしろ犯人を追っていたほうだと報告したときもまったく不思議そうな様子もなかった。
 そこまで考えてうけひめはふと思った。
 彼は元々ツヴァイトが犯人となど思っていなかったのではないだろうか?
 うけひめにツヴァイトをマークさせたのは逆に彼が犯人でないということを証明させるためだったのではないだろうか?
 そこまで考えてうけひめはそれらの考えを振り払うように首を振る。
 そんなことは自分に関係のないことである。依頼されたことを完璧にこなしそれにたいし正当な報酬を手に入れた。となればむしろ今考えるべきはその報酬で3人でどこで祝杯を挙げるか、それだけだ。依頼されたことに疑問を持つことなどない。
 そうだ、あのツヴァイトとLieserlとか言ったか?あの2人も誘ってみてもいいかもしれない。あの2人が根城にしている宿の場所は聞いているし他の2人に相談してみよう。
 大聖堂の大きな門をくぐり外に出る。まぶしい太陽光がうけひめに降り注ぐ。うけひめは足を止めまぶしそうに手をかざし天を仰ぎ眼を細める。そして再び仲間達の元へと向かうべく歩き出す。
(暗躍するのも悪くはないけど・・・やっぱり)
 うけひめはもう一度天を仰ぐ。
 空には太陽が光り輝いている。
 
あたかも彼女を祝福するかのように。
 
「陽の当たるところが一番ね!」
 
おしまい
 
 
 
〜あとがき〜
 曲がったことで嫌いで正義感の強い女アサシン・破天荒な女聖職者のPTリーダー・普段は常識的なのにいざ戦闘となると最前線で矢面に立つ男ハンター。
 このアンバランスな3人組こそRRが誇る「ぽけぽけトリオ」である。
 こんな3人組がミッドガルド大陸をまたにかけて冒険していたら・・・と思うとそれだけで楽しくなってくるのは俺だけでしょうか?
 そんな3人組を書こうと思ったのが今回の作品・・・だったんですがまったくそれぞれの魅力が出せてませんね。なんとかもっかい書かせてもらいたいとこです。
 今回は他同盟からゲスト出演させてもらっている人が2人ほどいます。海マスターのラルク氏と☆のシルアビル氏です。ラルク氏についてはうけさんとラルクさんが話していたのを聞いてラルク大司教、などとうけさんが呼んでいるのを聞いてそのままネタに。シルさんについては完全にツヴァのイメージ^^;
 
 
 
 
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