(3)
 
 
 食事の後、ツヴァイトとLieserlの2人が夜のプロンテラをぶらつくこと小1時間。まだ深夜というには早い時間であるが人通りはほぼまったくと言っていいほどない。頻発する辻切り事件のせいで皆、外出を控えているのだろう。あたりには虫の鳴き声と2人の足音だけが響いている。
「今日あたり来て欲しいのですね」
 Lieserlが静寂を破り口を開く。
「たぶん・・・くると思いますよ」
 ツヴァイトが頷き答える。もちろん確信はないがなんとなくこの日はなにかが起こる感じがした。それは神に仕えるプリーストとして神的ななにかを感じ取っているせいかもしれないし冒険者として培ってきた特殊な感覚のせいかもしれない。
「なるほど・・・なのです。なにかくるのですね」
 Lieserlがあることに気付き声を潜める。ツヴァイトもその理由がすぐに分かった。
 
 虫の鳴き声が一切止んでいる。
 
 そして虫の鳴き声が止まったのが合図だったかのようにツヴァイト達の前方の闇から街灯の弱弱しい光の下に1人の男が姿を現す。
 
 ピチャン
 
「やあ、こんばんわ。今日はいい夜ですね」
 闇から生まれるように現れた男は2人に爽やかな笑みを浮かべ挨拶する。
「こんばんわ」
 ツヴァイトが答える。Lieserlがツヴァイトの横から1歩ほど後方に下がる。
「でもいくらいい夜といっても最近は辻切りが多発して物騒ですしあまり夜出歩くのは感心できませんね」
 
 ピチャ
 
 男は言い、尚も笑みを浮かべツヴァイト達に向かってゆったりと歩を進める。街灯の光が弱く男の姿はまだハッキリと全体が見えない。あの水滴が落ちるような音はなんだ?
「でもそれはアナタも同じじゃないっすか?」
 ツヴァイトは答えある呪文を詠唱する。
 
 ピチャン
 
「同じ?あぁ、なるほど。夜出歩く危険性という意味で、ですか。ご心配なく。少なくとも私に辻切りの危険は及びませんから」
 男は尚も張り付いたような笑みを浮かべ歩を進める。
「なぜなのです?」
 ツヴァイトに代わり今度はLieserlが聞き返す。その手にはいつの間にか小型の弓。コンポジットボウが握られている。
「なぜなら私こそが・・・」
「ルアーフ!!」
 ツヴァイトの呪文が完成する。ツヴァイトの周りを光が走り辺り昼間のように照らし男を姿をその光の下に引きずり出す。
 
 
 男の左手は異形だった。
 
 剣と腕が同化しているというのであろうか。左手の肘辺りから先がそのまま奇妙な形をした剣と一体となっている。剣はまるで体の一部であるかのように脈動している。その剣先から一定のリズムで真っ赤なドロっとした液体が滴り落ちている。さきほどから聞こえていた水滴の音の正体はそれだった。
「いや、本当に今日はいい夜だ
 男が恍惚とした表情で言いまるで抱擁するかのように両手を大きく左右に広げ無造作にツヴァイト達との間を詰める。
「リゼさん。ああいう男とかどうです?」
 ツヴァイトが軽口を叩きつつ右手に愛用のソードメイスを構える。普段は左手にはバックラーを装備しているところだが今日は犯人に警戒されないようにと思い武器だけしか所持していなかったため左手にはなにも付けていない。
「こっちにも選ぶ権利はあるのですね〜」
 言いつつLieserlは右手に2本の白い光の矢を生み出しその光の矢をすばやく男に向かって放つ。アーチャー系列の職が得意とするダブルストレイフィングの為の矢である。普通の矢を撃つ代わりに自らの精神力を消費し2本の魔力の矢を作り出し撃つのである。Lieserlは特にこのダブルストレイフィングを得意としていた。
「ごもっともですね!」
 言いツヴァイトがLieserlの放った光の矢の軌跡を追うように男に向かって走る。
 男は尚も両手を広げ無造作に立っている。光の矢は2本とも狙い過たず男の両足を射抜く。体勢を崩した男の懐に瞬時に飛び込むツヴァイト。そして・・・
 
 
 
「おい!だいじょうぶか!!」
 右衛門が倒れたプロンテラ兵に声を掛ける。その腹は無残にも抉られ後数分もすれば彼の命が消えるのは間違いないように思えた。
「衛門さんどいて!神よ。彼の者はいまだ死する運命に非ず。彼の者の未来を守るため無力なる我に力を!リザレクション!!」
 兵士とうけひめの体が純白の光に包まれる。はたして奇跡は起こりうけひめが手を当て
ている兵士の腹部の傷がみるみるうちに癒えてゆく。
「ありがとう・・ございます」
 兵士が礼を言い体を起こそうとするがうけひめがそれを制止する。
「まだ起きちゃだめよ。傷は塞いだけど体力までもどったわけじゃないから。しばらくここで休んでなさい」
「しかし・・・あの辻切り魔を野放しにするわけには行きません。仲間に報告しなくて・・・は」
 兵士が苦しげに言う。
「私たちがやっておきます」
 LBが言う。
「すいません。ではここから北にあるプロンテラ城へ行って下さい。そこへ行けば仲間がいるはずです。私を斬った犯人はこの東門から南に向かって歩いていきました。ではお願い・・・します」
 兵士そこまでいうとそのまま昏睡する。
「さて、いよいよクライマックスね。じゃいきましょうか」
 うけひめが立ち上がり2人に言い「南」に向かって走り始める。
「しかしなんで俺らこんなとこにいるんだっけ」
 右衛門が唐突に言う。
「うけひめさんが尾行してる途中でご飯食べてターゲットの2人を見失ったからですね」
 と、LB。
「過ぎたことをゴチャゴチャ言わない!ほら急ぐわよ!!」
 言い走る速度を上げるうけひめ。他の2人はため息を付くとそれに付いていくべくそれぞれ足を速めた。
 
「誰か戦ってるみたいですね」
 LBが言う。軽装なうえにそもそも足が早いLBは他の2人に先行して走っていた。ついでに言うと彼女は職業上五感に優れている。
「たぶんあの角曲がったとこだね」
 右衛門が言う。彼の耳にも剣戟の音と何者かの叫び声が聞こえてきている。そしてそれらの音は数メートル先の建物の陰から聞こえてきている。そして3人はほぼ同時に角を曲がる。
 
 
 
そのとき3人の目に飛び込んできたものとわ><)ノ             完結編へ続く
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