〜 Story of ツヴァイト
      第四章 「暗躍する者」 〜
 
(1)
 
 
「プリーストうけひめ。最近このプロンテラで不穏な事件が起こっていることは知っているな」
「えぇ。もちろんですわ。ラルク大司教」
 プロンテラ大聖堂のとある一室。2人のプリーストが机を挟んでなにやら話し込んでいる。1人はビレタと呼ばれる聖職者が好んでかぶる帽子をかぶった男のプリースト。もう1人はコロネットと呼ばれる王冠を模した帽子をちょこんと頭に乗っけた女のプリーストであった。
「キミにこの事件の調査をしてもらいたい」
 単刀直入にラルクが言う。
「何故大聖堂が調査に?」
 うけひめが首をかしげる。今度の事件は王国の憲兵もかなりチカラを入れて調べているしわざわざ大聖堂が介入する必要性があるようには思えない。
「現場でプリーストの姿が目撃されてるのだよ。それも何度も。オペラ仮面で顔を隠しているのとすぐにテレポートで姿を消してしまうため正体は分からんのだがな」
 ラルクがため息をつき深く椅子に掛けなおす。ラルクの腰掛けた古めかしい木の椅子はギシッとその外見にふさわしい音をたて主人を支える。 
「ナルホド。それなら分かりますわ。」
 うけひめは頷き右手をこめかみに当てるようにして考え込む。もしそのプリーストが大聖堂と係わり合いのある人間なら・・・というかプリーストならまず係わり合いがあるわけだが・・・大聖堂の信頼は地に堕ちる。ならばその連続殺人鬼の正体が本当にプリーストだったならば、
「うむ。神の名の元に教化してしまってくれ」
 ラルクがうけひめの思考を読んだかのように言う。そのまっすぐな相手を射るような視線は実際に心まで見据えられてるような錯覚をもたらす。
「分かりましたわ。ただ仲間を2人ほど呼んでもかまいませんかしら?もちろん他言するような人たちではありませんわ」
 うけひめが席を立ちつついう。ラルクはちいさく頷く。まかせる、ということだろう。
 うけひめは笑みを浮かべラルクに向かい軽く頭を下げると部屋を出た。
 
 
「・・・というわけなのよ皆の衆」
 プロンテラ某所に位置するある酒場。うけひめは根城としているここで待たせていた2人にさきほどの話を聞かせた。もう日も暮れ、3人とも夕食も食べ終わっている。
 待たせていた2人の男女はいづれも冒険者だった。女の方は紫を基調とした全身にぴったりフィットする服に部分鎧(パーツ)で要所、要所を覆っただけの軽装。アサシンの基本装備である。彼女はLBと呼ばれていた。
 もう1人の男は動き易そうな厚手の服を着ている。男の横の椅子の背にはファルコンが止まり羽を休めている。男の名は右衛門。ハンターだった。
「その事件なら知っています。プロンテラで最近次々と起こっている辻切りですね。もう10人以上の人が被害にあって命を落としていますね」
と、LBが言った。
「なんで辻切りだって分かるの?怨恨とかの線は
ないんだ?怨恨とかなら結構簡単に犯人に行き
着けそうなのにね」
右衛門がファルコンの背を撫でながら言った。
「被害にあった人たちにまぁったく繋がりがないのよぉ。
だからプロンテラ兵も困ってるわけ」
おてあげだ、といでもいうように両手を上げ答えるうけ
ひめ。このくだけた口調が本来の彼女なのだろう。
  
 
 
 
「じゃあ僕らも調べようがないんじゃ?」
右衛門が言った。
うけひめはチッチッチッ、と人差し指を左右に振り
「いるのよ。大聖堂に怪しいのが。夜になると外出して
いる姿が何度も目撃されていて、かなり高レベルの
プリーストでしかも殴りでさらにソードメイスの使い手!どの事件当夜も外出していてアリバイはないみたいだし」
「・・・ものすごいあやしいですね」
「でしょでしょ?でもほんとにコイツが犯人だと私1人じゃ教化するのは無理そうだし・・・で2人にはほんとにコイツが犯人だった場合に教化するのを手伝って欲しいのよ」
「ところで教化ってなに?」
右衛門が首を傾げる。
「大聖堂、というか聖職者で使う暗殺という言葉の隠語・・・ですよね」
「まあどう言ったってやることは一緒なのよね」
うけひめが身も蓋もないことを言いつつ頷く。
「なるほどね。それでその怪しいプリーストの名前は?」
「ん〜と。ツヴァイトね。とりあえず明日から彼を調査してみましょ。で、今日はこのへんでおつかれ〜ね」
 うけひめは言うと立ち上がり酒場の2階に取っている自分の部屋へと戻るべく歩いていく。遅れて2人も顔を見合わせ腰を上げ自分の部屋へと向かった。
 
<中編に続く>
 
 
 
 
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