〜 第三章 「チカラとは」 〜
 
 
「もう正体を明かしてもいいんじゃないですか?」
 目の前で背を向けてペコペコに騎乗している奇妙な槍を持った騎士にツヴァイトが言う。
「・・・なんで俺だと分かったんだい?」
 騎士が顔を覆っていたジュエルヘルムを外しつつ振り返る。真っ白な短髪が夜の闇に浮かび上がる。
「その奇妙な槍。風の魔槍ゼピュロスですね?それが凶器だと分かればあとは使える騎士を探せばいいだけです。そしてそれを扱える騎士を俺は1人しか知りませんからね」
 ツヴァイトが吐き捨てるように言う。
「なるほどね」
 白髪の騎士が楽しげに笑いながら言う。
「なんで・・・なんであんなことをしたんですか!クロノさん!!」
「ツヴァ君。キミは強くなりたいと思ったことはないかい?誰よりも強く」
 クロノはツヴァイトの問いには答えずに逆に問いかける。だがその視線はツヴァイトの方へ向くでもなく虚空をジッと見つめている。
 ツヴァイトは何も答えずクロノを見据える。
「俺は誰よりも強くなりたいと思う。そのためのチカラが欲しい。だから俺は全てを捨てこの槍を手にした」
 言いつつクロノは右手に持ったその槍をかざしてみせる。それに反応したのか一瞬槍全体に光が走る。
「俺は・・・自分とその隣にいてくれる人。それにその周りの数人が守れるくらいのチカラがあれば十分です」
 ツヴァイトが呟くように言う。
「では、キミのチカラではどうしようもない敵がきたらキミはどうする?更にチカラを求めようとするのではないかい!?」
 槍の穂先をツヴァイトに突きつけクロノが言う。
「そのときは私も戦うのですよ〜」
 やたらと間延びしたその声はツヴァイトの後方から聞こえた。
 振り返り1人の女ハンターの姿を目にし絶句するツヴァイト。
「リ、リゼさん・・・。なんでこの場所が・・・」
「気にしちゃダメ、なのです」
 リゼと呼ばれたその女ハンターはその場にそぐわないゆったりとした笑みを浮かべ答えつつ歩を進めツヴァイトと肩を並べる。
「リゼ君か。キミがいなければあるいは・・・いや、その前にツヴァ君が俺を裏切らなければ・・・」
「クロノさん、それは・・・」
「どちらにしても犯してしまった罪を消す事はできない。もう俺は戻れないんだよ!」
 ツヴァイトの言葉を遮りクロノが叫ぶ。それと同時にツヴァイトは圧倒的なプレッシャーを感じた。クロノが一回り大きくなったような錯覚さえ覚える。
 それは以前訓練場でツヴァイトがクロノと試合を行ったときなどとは比べ物にならないほど強烈なプレッシャーだった。
「(全力のクロノさんがここまでとは・・・)」
 ツヴァイトの背から冷たい汗が噴き出す。しかし引くわけにはいかない。クロノの暴走はここで止めねばならないのだ。
 クロノとの出会いをこんな悲しい勘違いで終わる物語にするわけにはいかない。
 ツヴァイト自身がマスターとなった今でも、ツヴァイトの中ではクロノは自分にいろいろな事を教えてくれた尊敬すべきマスターなのだ。
「リゼさん下がって・・・。」
「了解なのです」
 ツヴァイトはLieserlが下がったのを確認するとソードメイスとバックラーを構え、自分とLieserlを支援すべく呪文の詠唱を始める。
「では・・・ゆくぞ!!」
 クロノが頭上に掲げたゼピュロスを振り下ろす。
 轟音とともにいなづまがツヴァイトとLieserlの周辺に降り注ぐ。
 
 そして戦いが幕を開ける。
 
 
 
〜あとがき〜
 ツヴァの永遠のマスター、玄野氏のイメージショートストーリー。
 ストイックにたった1人だけで誰に頼ることもなく強さだけを求めていく姿は騎士というよりは騎士を捨ててただなにかを狩る戦士というイメージ。金儲けにもけっこー凝っているあたり傭兵のイメージもある。
 彼はなにかのこだわりなのか槍しか使わず剣を使ってるのをツヴァは見たことがない。確か「槍騎士最強」の時代がくる前、そう、俺が玄野さんに拾われてギルド「黒い玉」に所属していた1年以上前からずっと槍騎士だった気がする。
 強さや弱さを超えたこだわり。周りに流されることなく「我」を通し自らのスタイルを貫く誇り高い姿。この姿は騎士らしくツヴァの目に映る。
 結局彼はなんなんだろう?
 
 
 
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